コストダウンと志し

著者: エイム研究所 矢野 弘

どの企業もコストダウンの活動は必死で取り組んでいる。特に円高のころ日本人の労務費が高くなってきて流行り始めたのが労務レートの安い海外生産である。日本の20~40分の1といった魔力のようなものに引かれて、どの企業も海外生産し始めた。しかし、進出するには、いろいろなリスクがあるが、なっと言っても安いので、それも覚悟して進出していく。例えば
1. 治安の悪さ
2. 食物,衛生,医療の悪さ
3. 宗教,法律,習慣のちがい
4. 税金・手続きの身勝手さ
5. 停電,断水などのインフラ
6. 読み書き計算できない人材
7. 部品調達・出荷物流などリードタイムが長く変化に弱いなど。

 

しかしこれは日本と比較してのことなので現地の人はそこで暮らしているから当たり前の事なのだが。それにしても治安については特にひどく、私自身東南アジアで何年も仕事をしたがホテルから100mも歩くと命が危ないくらいで、仕事場所へは門の中から門の中まで車の移動となり異文化交流どころではない。住民票もまともに無く、犯罪があっても誰なのか分からない。

 ところがこのような場所でも同じように競争相手企業も進出してくる。すると安いといっても同じ土俵になってしまうため、競争としてメリットは相対的に無くなる。そして残るのはリスクのみとなる。

 

そのリスクは時間がたてば小さくなる地域もあるが日本が進出した地域は雇用が促進され収入が増え物が売れだす。消費が活発になると仕事を求めて人々が集まり税収が増え治安が良くなり、さらに人が増える。すると必ずと言っていいくらい物価は上昇していくため進出した地域の労務レートは必ず上昇する。それも日本のよりか、はるかに早く上昇する。

まさにインフレも輸出していることになってしまう。すぐに安いレートの魅力が薄れてきてしまう。そして反省もなく、より安いレートの場所・国に移そうとする。ジャングルを切り開いて山奥へ・・・いったい工場はどこへ行くのやら・・・

 

労務レートの安い所にいけば行くほど先程いったリスクは大きくなる。実際進出した出向者(マネージャ)は「これが勝負どころで、日本が安全過ぎるのであって、怖かったら出ていきゃいんだ」と根性がすわった強者がいるので成り立つ。この根性は良しとして、実はもう一つの大きな潜んだリスクが進出してから芽生え始めるのである。労務費を分解してみると
   
 労務費=工数(人の時間)×レート

 

先程までいっていたのはレートの値に着目したコストダウンの手段であって、これは財テクと同じことなのです。レートの安さに引かれて日本と比べて2~3倍の作業者がいても、最初は気になるが「安いからまっいいか!」とムダをムダとして思わなくなる。他から指摘されてもレートの安さに指摘者も濠に従ってしまう魔力があるようで、やがてその会社の文化になりムダを取る力がいつのまにかなくなってしまう。特に鈍感になってしまうのが
1. 手待ちのムダ
2. 動作・運搬のムダ
3. 設計のへたさで作りにくく手間がかかるムダ
4. 不良を作るムダ・手直しのムダ
5. 設備可動率の低さで昼夜稼動するムダ

 

本当のリスクは、このムダを容認してしまう意識的リスクのことである。いったん文化になってしまうとなかなか改善に手を着けられないし、「今さら、なにを!」と労働強化と間違われてストライキでも起こされると大変なことになる。始めたとしても、すぐに力が身につかないし、人材が育ったと思ったら辞めていくし・・・・日本でも改善文化をつくるのに数年かかるのを、ましてや海外ともなると・・・・・と嘆いても始めないと始まりは無い。

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