品番を増やすムダ(商品編)

著者: エイム研究所 矢野 弘

■売れ筋を絞らないマーケティング■

 市場調査をせずに思い込みで商品企画をしたり、市場調査をしても的を絞り切れずにいろんな商品を企画したり、ひどいのでは「ライバル会社が出したので我が社も」と品番を増やしてしまうことがある。もし、ひとつの商品に絞り込み、それがハズレたりすると投資した開発費や広告費用はムダになり重大な責任を負うのが怖いためである。

 

責任逃れの体質があると、投入した商品がヒットせず外れたとしても「世間では何が売れるかわからないのが当たり前」というので、また同じように別の商品を企画しようとする。すると商品を絞り込む習慣がなくなり、最後には外れるのが恐ろしくフルラインアップをかけてしまうことがある。

 フルラインアップはどれかがヒットするだろうという考え方である。企画が弱い会社ほどフルラインアップをする。特に売り上げ主義をとっている営業が企画すると、1台でも売れれば売り上げが上がるので、もれなくフルラインアップをしたがある。また競争他社に1台でも取られるのが怖いため、フルラインアップをとる。

 

カタログをつくるときに、ズラリとフルで商品が並ぶと派手やかである。 商品企画というものは売れ筋を絞り込んでいくということであるのに、くまなくすき間を埋めていってフルラインアップし、全体に網をかけるような企画は全く企画とはいえない。このような商品企画は誰にでもできる。

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いくら製品の種類を増やしたとしても、それに比例して売上は増えない。お客さんを惑わし数を分散させるだけである。そのため、1品番当たりの数はどんどん減っていく。よく多品種少量というが実際に買ったお客さんに聞いてみると本当に少量品であった商品が欲しかったのかは、とても疑問である。

 ある空調機器メーカーでフルラインアップして12機種ばかり商品化したが、2年たってみると1台も売れなかった機種が2機種もあった。残りの10機種も図1のように売れたとしても低い部分は実際は、お客を惑わせ分散した結果の数である。

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ポートフォリオ分析をして自分たちの商品構成がどうなっているかを分析する場合がある。もし分析の中ですき間が開いたとしても、それが売れるものかどうかは別の話しである。すき間があるからといって「ニッチ」というキーワードを使い、商品展開すると、とんでもなく品番が増えてしまう。

 もし、そのすき間のところに他社の商品があったり、または商品を出しそうだと、誘いにのってしまい品番を増やすと、どんどん採算のとれない品番が増えてくる。なんども言うが「売上主義」をとっている営業活動では必ずこうなる。

 

■技術者中心のマーケティング■
 
 また技術部門の強い会社は設計者が設計したものを商品化してしまう傾向がある。すると他の技術者と違いを出すため、いろんな機種が出てくる場合がある。車を例にとると。過去のシェア争い時代に2大メーカーのひとつは対抗して同じ車種や車格をそろえて、どんどん品番を増やしていった。市場を見ると、似たりよったりの車であふれエンブレムを見ないとメーカーも名前も分からないようになってきた。

 

さらに技術陣の個性、意見が強いと設計者同士のつながりも少なく、部品レベルの共通性が少なくなり量産効果が得られず原価が高くなっていった。1台当りの利益で差がでて同じ台数が売れても利益に大きな差がでるようになった。

 技術者中心の車開発をしていると次のような現象も出てくる。開発した車があまり売れなくても、その商品を正当化するのに著名人や評論家の名を借りて名前を売って満足してしまう傾向がある。一種の責任逃れである。

 

評論家の意見がとても良くても、実際に市場でヒットするとは限らない。評論家の評判より世間(利用者)の評判が確実に正しい。とかく技術屋は世間の評判を聞こうとしない。プライドが高いため直接聞くことに、はずかしさを感じ、ささいなことでも傷つくのが怖いのである。そうゆう設計者に商品開発させるのは危険である。

 どちらにしろ過去や今の売れなかった商品の分析をろくにしないでどんどん新しいものを作る会社ほど品番がどんどん増えてくる。売れなかった責任をとらないでいると、その商品はずっと残ってしまい品番だけが増えていく。

 

■ジャンルごとの売れ筋の絞り込み■

 よい例ではレガシーやB4で有名な富士重工がある。富士重工は決してフルラインアップをしない。4輪駆動車を中心にして特有の商品展開をしている。そのためユニットや部品から見ると共通性があり完成品の車種数も少ないが、部品から見てもさらに種類が少なくてすんでいる。

 富士重工の協力会社を現場指導しはじめたとき、指導のたびに同じものを毎回つくっているので、まったく段取り替えをしないダンゴ生産をしているのかと感じた。ところが車種に関係なく共通の部品であるため、段取り替えそのものが無かったのである。

 

さらにすごいことであるが、普通、車の部品では左右は鏡対象に設計されているが、富士重工の、ある足まわり部品では共通で設計されていて、組み付け方で左右になるようになっていた。

 そのため組み立てラインや部品を加工するラインは同じものを毎日つくることになる。すると金型数も少なく、自働化を含めた作業改善もしやすいし効果も大きい。在庫・仕掛かりの削減改善も直ぐ効き目がでてくる。直接的にも間接的にも量産効果でコストダウンがしやすいのである。

 

コンサルとしては段取り替え改善の指導力を発揮できないが、段取り替え改善をしなくてもいいのがとてもいい。同じムダ取りでも、このラインを見ると段取り替え改善そのもののムダを取ったような感じをうける。会社の志しを、とても明確に感じる部品(設計)である。

 先程の商品構成からすると富士重工は下図ようになっている。すき間があったとしても売れこぼすとは限らない。ようするに、ピンポイントで一番を目指し多くの一番をもつことである。

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■極めつけの商品絞り込み■

業界に参入するとき、たった1品番で入ってきたメーカーがある。それはソニーのプレーステーションである。今ではプレステ2になっているが、すでに売れた数は10,000,000台を超えている。それもたった1品番である。

10,000,000品番で10,000,000台とは違う。ここで日常の生産の係わりを想像してほしい。たった1品番の生産管理をするには担当者は一体何人必要だろうか。たとえ10,000,000台売れても1品番だと生産管理担当者は一人でも多いくらいである。

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