派遣社員化がもたらすもの(管理監督者への影響)

著者: エイム研究所 矢野 弘

派遣社員を入れ始めたときは、例えば職場で2~3人の少人数から始めて教育にしても管理監督者はさほど負担は感じなかった。しかし、量変動に対応しようとしたならば正社員との比率を多くしないと効用が発揮しないため、じわじわと増やしてきた。

 QCサークルを行おうとしても職場には20人もいるのだが集まると4~5人と正社員が極端にすくなく小集団活動すらできなくなってきた。指導のときにムダをみんなで認識しようとして「みなさん集まってください」というと「派遣もですか?」といい、ひどい場合は課長のみが正社員で部下は、みな派遣社員という職場もある。

 

「企業は人なり」と、いろいろな解釈はあるとしても人材育成は企業存続の最低行わなければならないことである。しかし、派遣社員一人一人は長期に勤める気が薄いため気に入らなければ直ぐに辞めてしまう。するとせっかく教育してもリセットがかかり、新たに入った派遣社員にまた同じ教育をしなければならなくなる。

 ひどい場合だと1日で辞める場合があり技能や知識の積み重ねができず伝授できなくなる。教育する側の負担はますます増えてきて、それも同じことの繰り返しでレベルも前に進まない状態になり飽き飽きしてくる。さらに「どうせ直ぐにやめるのだから」といって教えるのにも身が入らなくなる。

 

技能や知識が習得しきれずに作業するとミスが多くなり不良をつくったりするので、任せる仕事は単純化させて与えなければならなくなる。すると仕事の流れが切断されて作業者間や工程間でムダが多く発生し生産性が落ち、リードタイムが長くなり納期に差し障りがでたり、仕掛や製品在庫が増えたりするのである。

 量変動のための派遣社員化から、さらにコストダウンのための派遣社員化と称して外国人を採用する企業が多く出てきている。日本人にくらべ外国人は2~3割ほど安いため、この魅力にかられて採用を増やしている企業も多い。

 

外国人を教育するにあたり先ず障害となるのが言葉である。日本語が通じれば良いが通じなければ必死のジェスチャーや、その国の言葉で書いた指導書を作ったり、通訳を雇わないといけなくなる。言葉が通じなければ現物見本やマンガで表現しなければならず、かといって全て表現できるわけでも無い。

 もし通訳や外部にたのんで標準書を作ったとしてもその訳し方かが合っているか、そもそも教える側は外国語を読めないのであるから確認のしようがない。たまたま雇った人に日本語が話せて通訳として教える時にその人を呼ぶと、その人の仕事が止まるので生産性は当然、落ちてくる。

 

教える人の負担は日本人を教えるのに比べて5倍もかかり、そのかけた5倍ものエネルギーも直ぐに辞めてしまうので維持できず10倍、20倍と管理監督者の負担は増していく。教えきれなくなると人の質と物や設備の質に伝播するので不良が多く、故障も多くなってくる。

 不良が一度に沢山発生する要因となり、その作り直しや修正となると大きなコストと緊急対応を迫られる。その負担は技能や知識を持っている少なくなった日本人の正社員に頼られ、残業や休日出勤が多くなる。これではいけないと、より作業を単純化して工程を小刻みに分けて作業させると「7つのムダ」が吹き出るように沸いてくる。

 

外国の数としても1国(1言語)であるとなんとかこなせるかもしれないが 、ブラジル,アルゼンチン,フィリピン,中国,ベトナム,ホンジュラス,ロシアと多国籍に採用すると指導する側はたまったものではない。一国で一言語を日本人は当たり前と思っているが中国やフィリピンなどは数十言語ある。日本でも方言が分からないから、まったく言語が異なるとサッパリである。

 

指導者はいろんな語学を勉強するか、通訳を多く雇うかしなければならないし、指導書を作るにしても、いろいろな言語で表現しなければならず文字で紙が埋まってしまい、よけいに分からなくなる。へたなマンガで表現するにしても、知り過ぎている日本人では何が分からないのか分からないため、的外れな指導書となる。

 

また、作業の指導にしても身振り手振りでは動作は伝わるかもしれないが、標準の意味や守る大切さは伝えることはできない。派遣でくる本人は日本でお金を沢山稼いで帰りたいとして必死に習得ようとするため、一人一人をみると熱心さを感じて好感をもてるが、多人数の多国籍になると、職場として会社として収拾がつかない状態となる。

 

今は指導する側のベテラン正社員がいるので何とかこなすことができるかもしれないが、時間というものは容赦なく過ぎていき、入ってくるのは外国人や日本人の派遣社員であり、定年などで辞めていくのは技能,技術を持った正社員の日本人となる。いつのまにか現場はすべて外国人ということになってしまう。

 あわてて正社員を雇い入れても教育する人がいなくて先輩はみんな派遣社員で、言葉の通じない外国人となる。このような状態になると企業としてはお終いである。お客が現場を見学にきたとき、このような状態をみると、とても不安となり製品を買いたくなくなったり、も仕事も頼みたくなくなる事でしょう。これで自主倒産した会社もある

 

今、追い打ちをかける現象がある。それは少し景気が上向いているので製造業など増員を図っている。企業としては景気が長く続くとは思っていないため派遣社員の増員となる。優秀な人は大企業のレートが高く福利厚生の良いところに流れて行くため、中小企業にはそうでないのがきてしまう。

 母国語の文字が書けないのやら足し算引き算などの算数ができないのが入ってくる。そうなると指導する管理監督者の負担は悲惨なものとなる。それでさえ監督者の人材不足の中小企業には大きな負担となる。

 

確かに派遣社員は量変動に対応しやすいし、外国人はレートが安い。しかし、本当に安かったかは疑問である。特に命令や金勘定ばかりして、現場(4M)に気がいかない経営者はこのことに気づかない。短期的に便利なものは長期的に活用すると麻薬と同じで蝕まれてしまい、取返しのつかない体質になる。

 

●外国人派遣社員を雇った場合のコスト
①直接派遣費用+②現地の外国のマニュアル作成費用+③日本人よりかかる教育時間+④通訳を頼む費用+⑤通訳がわりの先輩派遣社員費用+⑥コミュニケーション不足によるトラブル費用(正しく教えたと思っても間違ってしまった)+⑦成長しないロス(本にもその気にならないし、会社の期待もない)+⑧改善しないロス+⑨再教育費用(直ぐに辞めて再度かかる費用)+・・・

 

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