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2005年3月

派遣社員化が与える影響(政府と市場)

著者: エイム研究所 矢野 弘

単純作業は派遣外国人という考え方で外国人労働者を多く受け入れてきた。そして日本人はもっと高度な仕事をさせようとしてきたが日本人がみんなレベルの高い仕事ができるとは限らない。レベルとは頭だけではなく、技能,技術,動作のレベルである。そのため要求にこたえられない日本人が問題となっている。

最近社会的に問題になっているのが20代から40代の若い人の凶悪な犯罪である。その人たちのほとんどは仕事がなくぶらぶらしている。若くて仕事がないと、ろくなことを考えない。そのため犯罪が増えてしまうのである。

 

一方、政府は社会保険収入の減少で年金の減少や医療負担の増加を補うために、正社員と同様に派遣社員に対しても社会保険である厚生年金や健康保険を払えという法律をつくってしまっている。

企業側としては経費節減のために社会保険の会社負担がない派遣にしたにもかかわらず政府は派遣社員にも負担を求めてきた。実施は中小企業の反対意見により見送られているがいずれは実施されるであろうし、私としては実施してはしい。

 

というのは、派遣社員のコストメリットを少し失うことで、以前のコラムで述べた派遣社員による企業のデメリットと釣り合いができ正社員化が進むのではないかと考えている。 つまり日本人の正社員化が進むと、安定収入により安心して健全な生活ができるようになり、結婚へつながり少子化にも歯止めがかかり、収入が増えることで消費も増え、市場がにぎやかになり、税金の収入が増えるという善い循環が生まれる。

 

企業としても、収入が低い派遣社員が増えれば増えるほど消費が冷え込むことになり、結局自分自身(企業)にふりかかってくることになる。少しでも収入の多い企業にほいほいと移られては企業のモラル(道徳)とモラール(士気)の低下につながり、どんなによい経営理念も矛盾が生じてくる。

 

治安にしても若くて仕事を持たない者の犯罪を抑えるためにはとても効果的な法律と思われる。さらに政府は派遣社員として1年以上同じ職場にいてはいけないという法律も定めてきた。つまり政府としては技能,知識の積み重ねが重要な職場、たとえば生産現場から派遣社員さらに定住を希望しない外国人労働者を追いだそうという考え方である。

 

1年で職場移動させたのでは、せっかく伝授した技能が継続的に活用できないので派遣では都合が合わなくなってくる。このことも正社員化の方向へと進める要因となる。確かに正社員は今の派遣と比べて経費としては多くなる。

派遣は安くて便利だからといって多く長く採用した結果、社会は若い日本人の失業者、働く意欲のないニートを生み出した。仕事を通じての人間形成をおろそかにした企業へのしっぺ返しとして、安定性の無い市場、凶悪な犯罪の世が形成された。

 

企業は単に金儲けとして存在しているのではなく社会の一員として認識しなければならない。企業家はこのことに気づかなければならない。

 

派遣社員本人の気持ち

著者: エイム研究所 矢野 弘

派遣社員として働いている人のほとんどは、以前どこかの企業の正社員として働いた場合が多い。初めは気に入って入社し希望通りであったが、勤める内に特に女性の場合は、結婚(夫の勤め先の都合)や出産子育て、あるいは、お局様のいじめや公私混同で犬の散歩など私的な扱いなど、辞めた理由はさまざまであるが仕事そのものがいやで辞めたのは少ない。

 

一方、男性では自分の才能に合っていないと思ったり、ノルマがきつくて耐えられないなど仕事そのもので辞めることが多い。辞めた後に次の仕事を探すのであるが、辞めた時と同じようになるのがいやで正社員ではなく派遣社員をとりあえず選び、そのままの状態となることが多々ある。

 

派遣を選ぶ理由として日本人の場合、重要順に
1.勤務地を自分の都合良く選ぶことができる。
2.気に入った会社と出会うまで自分で探さなくてよく、直ぐに紹介してくれる。
3.休みや勤務時間が自由に取りやすい(その分収入が減るが)
4.正社員と比べて月々の手取り収入が多い
となる。

 

永住を希望しない外国人派遣社員の場合は、とにかく手取り収入の多さが一番で、早くお金を貯めて本国に帰りたいため社会保険すら入らない人もいる。家族できている場合は一人だけ社会保険に入り、他は扶養家族にして保険がきくように工夫したりする。また、極端な場合、住民税も納めたくないために1年未満で引っ越しを繰り返す人もいる。残業や夜勤、休日出勤も進んで受けるので雇用する側からすると熱心な人材にみえてくる。

 

また、派遣社員がゆえに不満もある。
・いつ仕事がなくなるか不安(入院や怪我などすると解雇されることがある)
・有給がない(休んだ分収入が減る)
・どんなに仕事ができても、レベルを上げても収入は同じ
・ボーナスや退職金が無い
・面倒な仕事が回される
・年金に入らないことが多く将来が不安
・提案を受け入れて来れない(人としてみてくれない)

 

特に毎月の契約更新で月末に派遣会社から通知がこないと次月からは「こなくていいよ」なので、常に月末は緊張状態である。また、会社の業績は職場に現れるため、仕事量が減ってくると「そろそろ辞めろと言われそう」「切られる順番はだれからか・・・」などと不安がつきまとう。

いつ仕事がなくなるか不安なため仕事をテキパキとこなす派遣社員と監視しながら仕事している正社員の状態を写真やビデオに撮ってみると人してふれ合う姿がおかしく見える

 

●職場の人間関係

たてまえ上、正社員は仕事を指導する立場であるから派遣社員から見ると、監視されているような目線を感じる場合もあり、同様な仕事をしていても友達をつくりにくい関係となる。年齢的に正社員の方が若い場合や、派遣社員の方が仕事では経験者であると、とてもぎくしゃくした関係になる。

 

めんどくさいことばかり派遣社員に任せていると仕事の真髄の部分に精通するのは派遣社員だけとなる。ましてや新任上司でもくると仕事の指示に不都合が生じトラブルの元となる。トラブルが起きても処置するのは派遣社員となるため、上手に上司の指示とは別の仕事のやり方をするようになる。

上司に仕事のことで指摘でもして嫌われると、「派遣を切られる順番」が上になるのではないかと不安になるため、どんなに正しいことでも言えずじまいとなる。派遣社員同志では同じ境遇にさらされるため共感的団結心が生まれる。

 

仕事の教育にしても、派遣社員は直ぐに辞めるのではないかと仕事の目的も言わず作業だけを教られるだけで済まされる場合が多く、派遣社員からすると「もっと善い方法を考えるのに」と思っても人として見られていない不満をいだく。

 

●収入を増やしたい

収入を増やすには時給の高い職に就かなければならず、キャリアと才能を仕事を通じて上げていかなければならない。

「何のために」を教えてもらえない、QC活動も参加させてもらえないなど向上心を満足させない会社は派遣社員の方から辞めていく。特に男性ではレベルの高い人材ほどより高い時給を求めて辞めていくことになり会社側としては損失が続くこととなる。

 

常に、派遣社員はリスクを背負って生きているため、日々が真剣勝負となり仕事を早く覚えて結果を出すという習慣が身につくようになる。もしかすると、これが本当の就職(職につく)であり職人(プロフェッショナル)であるかもしれない。逆に正社員とは会社に所属しているだけで職業にはついていない人が多いかもしれない。リスクを感じない正社員を見て危機感を持った派遣社員に換えていく経営者の気持ちも理解できる。

 

日本人の場合、ほとんどは就職としての正社員を望んでいるのであるが、企業は派遣化を進めているために社会的に人材の育成プロセスが崩れてきている。職場の人間関係も「一致団結」すらできなくなってきている。仕事を通じての人間関係づくりの要でもある小集団活動も当然やりにくくなった。企業としては個人に負わせた「人材育成リスク」部分を勤め方に関係無く仕組みを築かねばならない。派遣社員,パート,アルバイトみんな「人」である。

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