2006年4月
2007年問題をぶっ飛ばせ 仕上げ作業
著者: エイム研究所 矢野 弘
背景
継手の加工後のさまざまな形状の仕上げ工程(異物チェック,面取り、バリ取り)で、半導体装置で使うため慎重な仕上げが必要となる。
「創意工夫で世代を超えて伝承、年齢も雇用形態も関係ない」
<先輩(64歳で経歴パートで20年弱)のお話>
●今の仕事のきっかけと当時の教えてもらい方
45,6歳で始めて会社という団体の中で仕事をし始めた。前の会社では、とても細い金線を巻く仕事をしていた。技能というより、いかにきれいに汚さないように巻きたかったので道具の要であるピンセットは人に負けないくらい細く研いでいました。
その時の上司の教えに今でも強く頭に残っていることがある。「ホウキを取ってくるとき、ただ単にホウキだけ探してまっしぐらに取りにいかないで、その途中にあるものをよく見て覚えて帰りなさい。次に何かを取りに行くとき、すぐに行けるように」と、仕事は必ず往復するのが常であり、必ずキョロキョロするのが身についた。
この会社に入ったときに3カ月は見習いだった。その後1年半ほどたってテフロン樹脂の面取りやバリ取りをし始めた。しかし、やり方も分からず道具も無かったため迷ってばかりでいた。どうやって取っていか分からず眠れない日々が続いた。そこで外注さんに教えてもらいに行ってこの班長さんから削るナイフを1本頂いた。今でも大切に保ってある。そして、班長さんがナイフをつくっているのを見てつくりかたを覚えた。
●腕を上げるために大切なことはなんですか
頂いたナイフが届かないところがあり困ったことがある。そこで自宅のナイロンタオルや紙やすりを持ってきて、棒の先につけてこすったり、金ノコの刃を削ってナイフをつくったり、家にあるものをいろいろ持ってきて工夫していった。とにかく仕事で困ったときは、やり方や道具を工夫することが大切で、なに気なくふと考えてやっていた。癖かもしれない。ただ単に仕上げそのものをこなすだけでなく工夫を楽しむことがいいと思う。
●教え方でのこだわりは
最初は隣にいてもらって見せながら見ながら教える。最初はきびしいですよ。とくに出来ばえは。しかし、その後のやり方は自分がやりやすいように工夫しなさいと教える。先ず自分のやり方を教えるが、次第に自分自身もやり方を改善してしまうので教えたことと変わってくる。同じ道具を使っても出来栄えが違うので、やはり自分の感覚で工夫した方法や道具をつくることが大切だなあと思っている。
●五感の中で大切なものは。
削ったときの手の感覚で出来栄えが分かる。目で見て確認するが、きれいに取れたときは手の感覚で分かる。それがすごくうれしいし喜びがある。だから刃物の工夫や自分で研ぐことが大切だと教える。道具を創ったり家では棚をつくったりするのがとにかく好きです。
与えられた仕事をこなす人材の確保と育成はわりとたやすい。しかし、行っている自分自身の仕事の改善や、担当以外の仕事の改善ができる人材の育成はとても困難である。企業は足元を固めることと成長を両立していかなければ未来はない。どれが良いとか悪いとかではない。使い分けることがよいことである。
2007年問題をぶっ飛ばせ 改善も仕事の内、伝承するのは工夫する面白さ
著者: エイム研究所 矢野 弘
背景
半導体装置で使われるの樹脂継手を生産している。一見どのようにして加工するのか分からない複雑な形状の図面ばかりである。
<先輩(49才,経歴30年)の話>
家業で10年、前の会社で10年、今の会社で10年である
●仕事を始めたきっかけと当時の教えてもらい方
自分の親が昭和2年からやっていて、鉄工所の隣に住んでいた。最初に教えてもらったのは父親なんです。子供のころからこの仕事をやるつもりでいたので、専門学校に行った。子供のころは車やバイクの改造で楽しんで、ものづくりの面白さを知った。それが仕事になったのは20代初めからである。
最初にいきなり「この汎用旋盤をあげるから」と親から与えられた。2年間やった後「そろそろNC旋盤いこうか」「今まで汎用旋盤でやってきたことを数字に置き換えたらNC旋盤は動くんやから」と言われたのを一番覚えている。
父親はNC旋盤からいきなりやってはだめ。削り方も分からないのに動かし方だけ知ってもだめだと言われた。父親から直接教わったのは基礎だけで、削るということはどういうことかを教えられた。
困ったときは気軽に相談に乗ってもらえたし、人のやってることを見て盗んだ。反抗期というものはなかった。今の業界はマニュアル化されているが、それがかえって弊害だと思う。
今は結果を出すだけの技術になっている。ちょっと形が違うだけで全く違うものととらえられてしまう。
●教えられていると感じた期間と任されたと感じた時期は
教えてもらっているなあと思ったのは3年間ぐらいであるが1年目くらいから簡単な仕事を任され始めた。次第に、図面を見たら加工のイメージが「ピン」とわいてくるようになった。しかし、できるかできないかの五分五分の時は始め安全策をとるが、できそうだと分かると全く加工方法を変えて削ったり刃物を自分でつくってしまうこともある。
●腕を上げるのに大切なことはなんですか
図面を見て「ピン」とくるまでには経験を積まないとできないでしょう。もう一つ他社の見学をすると思ってもみなかった発見がある。見たときはすぐに役立つわけではないが後々「ピン」とくるときに見たことが頭にでくることがある。ものづくりは「まずやってみる」ことから始めるのがいい。するとつくるのが面白くなる。
自分の工夫したジグや刃物を他の人が使う場合があるが、刃物の形とか、なぜこんな形になったのかの背景もていねいに書いておく。私はいつもオープンにしている。
●教える立場になってからのこだわりは
家業の10年目から前の会社に入った時、いきなり教える立場になった。しかし同じものをたくさん作る職場だったので、ものづくりの工夫する面白さ技術技能の伝承というものはあまりなかった。しかし、納期の厳しさは教わった。
父親の教え方は割と理屈で教えてくれた。今考えたら、ありきたりなことを言うていたと思う。日高精工に入ったときも教える側であった。難しい仕事を受けた時は、先ず自分でこなしてみる。自分で刃物や加工方法を工夫し、それをいつも絵に描いている。しかし部下と一緒にやることはない。
自分で何回かやったら部下に何回か繰り返してやらせてみる。そのうち新しいもので「自分で最初からやってみろ」とやらせる。自分の知識を与えるのではなく、その人のやり方を工夫させる。自分の発想とか創意工夫することができないとダメである。
2~3年も同じことをやっていたら、その仕事は向いていないと思っている。自分自身、創意工夫がなくなると「自分には向いていないなあ」と思もい辞めるつもりである。
改善するということは当然で、前と同じ時間で加工していることは自分としては仕事ではないと思っている。ただこなしているだけだと思う。一秒でも速く削るには、ちょっとでも工夫することが大切だと思っている。
難しいものを加工するとき、特殊な測定器を使わないと測れないような加工方法ではだめだと思う。ノギスで測れるような加工をしていくことが技量向上につながると思っている。
五感の中で大切なのは音とか操作ハンドルから伝わってくる震動の感覚だと思う。加工中に音や振動が変わるのを気づくことが大切である。他の人がやっていても、変わった音がすると止めにいくことがある。削りはじめたときは目を優先させるが微細な加工では音や振動を頼りにする。とにかく教え方は課題を与えて工夫させるような教え方である。そしてそれから興味を持ってもらうことを優先してる。一番影響を受けたのはやはり父親です。
これを旋盤で削る
削り方の工程設計と刃物の設計
工夫された姿バイト