「在庫のムダ」が大失業を起こさせる

著者: エイム研究所 矢野 弘

先月で「7つのムダ」の中で、諸悪の根
源は在庫のムダであるとお話ししました。
.つくり過ぎのムダ
.在庫のムダ
.動作のムダ
.運搬のムダ
.手待ちのムダ
.手直しのムダ
.加工そのもののムダ

 

昨年の夏までは順風の好景気だったのに、ちょっと不況になり始めると、一気に人員整理を始める企業が現れだしました。職を失うニュースが報道されると節約ムードが広まり、さらに物を買わなくなることを助長させてしまいました。そして人員整理の連鎖が起こりました。
実際の消費者市場は10~20%くらい落ちたのに、メーカーの生産量は半分やひどい場合は「0」が数ヵ月続いています。市場の実際の減少より、メーカーの減少のほうが極端に大きくなった原因は、諸悪の根源の「在庫のムダ」なのです。

 

●お客さまの購入方法で 在庫の量が異なる

好景気のころは品不足で販売チャンスを逃さないように代理店やメーカーは在庫を持って、いつでも何でも売れるようにしていました。このように流通過程で在庫を持ちたくなるのはお客さまの購入スタイルとメーカーのリードタイムに起因します。
日本であれば車を買う場合は、まず代理店に行って望む仕様を打ち合わせして注文します。代理店は見本しか置いていないので、その場で買って帰るわけにはいかず、お客さまは1ヵ月以上待たされて、再度、代理店に車を受け取りに行きます。そのためお客さまは最低2回は代理店に行くことになります。人気車種だと6ヵ月以上待たされることもあります。

 

この購入方法だとメーカーも代理店も在庫を置いていないので、売れなくなったとしても市場と同じ減少の仕方で済むわけです。しかし、アメリカのお客さまの買い方は西部開拓時代の馬を買うのと同じで、その場にある、取りあえず気に入った車を選んで、その場で買って乗って帰ります。アメリカでは2度も3度も足を運んで来ないし待ちません。
そのため代理店はいろいろな車種とオーディオなどのオプションを組み合わせた在庫を持たないと販売チャンスを逃すので、おのずと在庫が多くなってしまうのです。また売る
側はお客さまの好みと少々合わなくても値引きして売ってしまうのです。

 

日本でつくってアメリカに売るとなると、船で運ぶため時間がかかり代理店のみならず日
本やアメリカの港に在庫がさらにたまり、メーカーから消費者までの流通在庫は好景気の時は2ヵ月分でも、少し不景気になると半年から1年分になってしまうことになる。
代理店が買ってくれているから、メーカーとしては売上は上がっているが、実際はたまっているのです。

 

●在庫が多いほど 生産停止期間が長くなる

代理店は自分のところの在庫が減るまではメーカーに発注しないし、メーカーも自分の在庫が減るまでは生産しないので、製造現場としては数ヵ月も生産停止状態になる。これが今回の大減産の原因である。
実際の消費市場はほどほど売れているのに、メーカーとしては大減産になる。在庫が無ければ市場と同じ量の生産ができるのに、在庫のおかげでしばらく仕事が無い状態になる。

 

●在庫を減らしきれない

好景気の時は、高級車種やオプションが多く付いている値段の高い車が売れたが、少し節約志向になると安い物が売れるので、好景気の時にためた在庫と売れるものが合わなくなる。すると思ったより在庫が減らないので、なかなか生産再開ができない。ましてや最終消費者までの在庫がどこにどれだけあるか把握していないと生産開始時期など予想がつかない。
お客さまと合わない品物がいたるところでずっと残って、6ヵ月以上も寝かしてしまうと新車では売れなくなり、押し売りをしたり値引き販売をすることになる。値崩れの始まりでますます儲けが少なくなる。そして、深い赤字のサイクルに入っていく。

 

もし景気が良くなる時期が来たとしても、前回までよく売れていたものが、また売れるのかというとそうではない。環境が変わり、車であるとガソリン車ではなくハイブリットや電気自動車が売れていくので、今までの在庫は結局売れないで残る。

 

●経営者の判断

在庫をためる決断は資金が多く必要なため、経営者の判断になる。しかし、ためようとする気持ちになるのは生産や物流のリードタイムが長いからである。すぐにつくれて、すぐにお届けできるならば在庫なんて持つ必要はない。

 

●景気の良い時ほど在庫削減活動

小集団活動は、景気の良い時ほどリードタイム短縮や在庫削減にかかわるテーマを選んで、いかなる景気にも対応できるようにしていないと、自分や仲間の職を守ることなどできない。

在庫の削減

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