異常時のリーダーシップ(2/4)

著者: エイム研究所 矢野 弘

(3)価値観(優先順序)を宣言し表示する

① 人命が最も優先である。機械は壊れてもいい。製品もダメになってもいい。
②被害の拡大を防ぐ。
③やってはならないことを宣言する。

勝手に助けに行かない。勝手に機械を止めたり復旧しに行かない。どうしても、日ごろは生産や品質を優先するため、つい異常事態でも優先順序が変わらず行動しようとする。被害の拡大を防ぐため優先が変わることを全員に伝える。伝えたことは、すぐにこの価値観をホワイトボードに書く。

言葉はすぐ使えるコミュニケーションの手段であるが残らない。言っても聞こえない場合もあるし、言い間違い、聞き間違いがある。必ず言ったことは表示する。言葉は伝達ゲーム的な状態になると必ず違った内容になる。

これが原因で人命や設備の被害拡大が起きる。

 

(4)人命救助と被害の拡大防止

まず救助する場の安全の確保。そのため設備の停止、電源やガスの元栓を徹底的に閉めていく。阪神大震災では停電後に電源が勝手に復旧して二次災害を起こし、これで亡くなった方が多くいた。

不在の人や建物や機械に挟まれている人を探したり助けに行く時は、必ず対策本部長に言って(任命されて)行くこと。誰が誰を助けに行くのか、誰がどの機械を止めに行くのかも指示を受けて行く。

これもホワイトボードに時系列で書く。人助けに行く時は必ず2~3人一組で行く。一人で行って、もしそこで被害に遭うと助けることができない。周辺の安全の確認用に一人加えて行く。

決して一人で行動してはならない。倒壊した建物の中に挟まれ、火事が迫ってきて、助けたい気持ちが大きくなるが、燃えている建物の中に入って、逆に助けられる者になると、さらに被害を増加させてしまう。

非情かもしれないが、火事や爆発、余震があるため、制止する決断も今生きている人を助けていることだと思うことである。

 

(5)伝達手段(コミュニケーション)のための伝令を設ける

大きな地震があった場合には、電話やメールは通じないし停電のため照明もない。そのため連絡はすべて人から人への連絡になる。そこで対策本部長はまず3人以上の伝令者を任命する。

伝令は決して伝令以外の役割はしないことである。本部と各拠点の連絡を取り合う役割で、とにかく普段の携帯電話とかメールの機能として働くことである。例えば、救助に行った人と一緒に救助の手伝いをするのではなく、救援者の増員や必要な道具を本部に伝令として報告しに行き、本部長にその旨を伝えるのである。

本部長はそこですぐに対応ができる人を選んでそこに送る。伝令は拠点と本部との素早い伝達や正確な状況報告が必須任務で、このことで本部長はタイムリーで的確な作戦と指示ができるようになる。

現場に行くと伝令も人であるから、被災者を見れば手助けしたくなるが、より強力な救援をするためには応援を頼む伝令の役割のほうが大きい。伝令から聞いたこと、誰に指示したのか、指示した内容、結果をすべてホワイトボードに時刻とともに時系列で個条書きしていく。

本部長は決断することが多く、状況も刻々と変わり、優先順位や決断内容も変わっていく。すべて頭に記憶しておくのは危険であるため、必ず誰でも見られるように表示していく。

 

(6)決断内容はタイミングで変わる

対処方法を考えて決めたことが間違っていることはある。大切なことは、間違ったことの情報をすぐにつかみ、即もっと良い方法に修正していくことである。決断の遅れや情報の遅れがあると対応策も異なってくる。

最も大切なのはタイミングである。「50点でも良いすぐやれ」「巧遅より拙速を尊ぶ」「誤りはすぐ直せ」で結婚式の後に来たウエディングドレスにならないようにする。

 

(7)帰宅と出社の指示

一通り落ち着いてきた場合に、社員を家に帰らせることになる。自宅も被害を受けているかもしれない。連絡も取れないため心配でたまらない。早く帰りたい気持ちでいっぱいである。

そこで帰宅させる前に必ず点呼を取って確認し、帰宅させる。帰る時も「帰ります」を本部に連絡してから帰ることである。誰が帰ったというのもホワイトボードに記入する。もし、本部に連絡しないと、まだ会社にいるかもしれないと思うからである。必ず報告し、記録していく。

明日の出社は、するのかしないのかも決め、その連絡方法を決める。帰宅後に変更になっても出社した時には掲示板に表示して伝達できるようにする。とにかくメールや携帯電話はないということを前提にしたコミュニケーション方法をとる。

平和な時と戦争時ではリーダーに求められることは異なる。大規模な災害があった時は、戦争と同じである。どちらかというと、いつも改善している人、つまり常に変化させている人のほうが異常時に適任かもしれない。

 

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