災害は復旧だけでは済まない(1/2)

著者: エイム研究所 矢野 弘

● 集中しても分散してもリスクは避けられない
  どこかで、なにかがつながっている

今回の地震やタイでの災害で日本のものづくりの実力が見えてきました。日本のメーカーが数社生産できないだけで、日本も含めて世界の多くの海外企業に生産停滞を与えるだけの影響力を持っていること。さらに、元に戻すだけの復旧では市場は許されないことです。復旧するだけでも大変なのに、それ以上の変化を求めています。
今回の災害で現場に起こっていることをお話しします。

 

● 在庫がすぐになくなった?

災害に遭った企業のいくらかは多くの在庫を持っていましたが、お客さまである企業側はすぐに生産停止状態になりました。災害後の6ヵ月が経ってもお客さま側の生産は半分もできませんでした。災害に遭った企業は復旧に時間がかかっているのでしょうか。
設備の復旧や人材の応援では多くの企業が支援をして、日本人の絆きずなを感じましたが、復旧するにつれて支援している人材が変化してきました。普段、電子部品などのメーカーは、生産計画に従ってロットで生産し、在庫が基準以下(安全在庫)になると、また生産する。
すると在庫の状態は下図のようにノコギリの刃のようになります。平均すると半年分もあったりするのですが、品番によっては数ヵ月分あったり、1ヵ月分もなかったりと、つくったタイミングで在庫量は変化します。
この状態を維持する生産管理をしていくと、お客さまの要求量を供給できるので問題はありません。

受注数と在庫量

ここで、災害が起きると生産できなくなるので在庫の分だけの販売になります。災害が起きる前からの注文は在庫があれば売るのですが、生産ができないとなるとお客さまは「われ先に」と在庫を奪い合うように買いあさります。
そのために、お客さま同士の支援合戦になりパニックになるのです。復旧し始めると、電子部品などの共通部品であると、多くのお客さまから同時に、早め多めに要求がくるので、より激しく不足しているような数値になります。
受注残がますます膨らんでいきます。それは信じられないくらいとんでもない数値になるのです。復旧し始めても、どれを優先的に生産していいものか分からないパニック数値です。

 

● お客さまの状態は在庫満杯になる

お客さま側は、災害にあった仕入れ先の特定の部品だけが入ってきません。その他の発注した部品は入ってきます。コスト優先で海外調達した部品などはリードタイムが長いため、いや応なしに6ヵ月分くらい入ってきます。
生産できないため倉庫が在庫だらけで整理整頓できません。もし、他の部品メーカー、特に海外調達を止めると、その会社は売り上げが落ちるために他のお客さまを探して生き残ろうとします。
発注を再開した時には、リードタイムが長いために、今度はなかなか入手できなくなる恐れがあります。

 

経営判断で調達を止めないでおくと、在庫はますます膨らみます。部品品番の多い製品ほど多くの仕入れ先に波及していくので、大企業の判断は大きな経済問題となります。部品が多い組み立て製品であると全種類の部品が揃わないと生産できないので、部品はそれまで倉庫で眠っていることになります。
お金の支払いだけはしなければならないため、資金繰りに困ってしまい、赤字も膨らみ資金不足で倒産もあり得ます。

 

 

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