物づくりの小話し、あれこれ 21~30

物づくりの小話し、あれこれ(著者 小林弘司様)21~30

21.作掌時間は動作の影

 作業時間とか、STとか、工数とか、色々な「時間」という数字が出てくる。一旦数値化してしま
うと、絶対視してしまうところがある。
 数値は「動作」の「影」でしかない。影は「太陽」がどの位置かによって、長くなったり、短くな
ったりする。それぐらいいい加減なものだ。
影ばかり追わないで、本体の動作をよく見ることだ。数値は、座っていても知ることができるが、動
作を見ようとしたら、現場にしかない。

22.丸かいてチョン

 現場を、作業者を、監督者の動きを、見るというのは根気のいるものだ。
どんな難しい職場・工程でも、一日じっくり見れば、たいていのことは見えるものだ。それが数サイ
クル見ただけで、解ったような顔をして立ら去る。
 一度、丸をかいてそこにチョンと一日中立ちん坊してみるとよい。
根気がいるものだけに、なかなか実現できないと思うので、自主研にでも参加してみて行動してみる
とよい。

23.バケツ叩き

 少人化ラインになっていたり、作業の授受ができると、5秒の作業改善はそのまま生かすことが出
きる。しかしそうでないところの改善は、その5秒を維持するということはなかなか難しい。
そのままにしてお<と、5秒改善しても、作業者の動きが5秒分遅くなるだけである。
 作業は速くして、5秒だけ「手待ち」の状態を維持していてくれたら、よく判るのであるが…。
そのために、5秒分作業完了時に、バケツを叩いてもらうという「話し」がある。
バケツを叩いても、何の付加価値を生まない。でも薄められるよりは良いと考えたらしい。
 そうすると、いつの時か「5秒分の仕事を持っていっても不満は出ない」というのである。
寂しい話しである。少人化ラインにはそんな虚しい話しはない。

24.軽快なゴロ捌き                                     ・

 人が足りないということで、ソフトポールの試合にかりだされた。「年ですから」といいながら、
内心、若い時に野球をやっていたので、自信めいたものはあった。
一塁に送球しても、まだやれそうであった。
試合が始まって、ゴロが飛んできた。自分のイメージでは十分追いつける。「しめた」と感じて、軽
く捌くつもりであった。
ところがである……。
そう球足が速いゴロとも思えなかったが、あと一歩及ばずでヒットになってしまった。
慣れも、体力も衰えていたのである。
 改善も、日頃からやっておかないと、頭で理解していても、上と同じような失敗を起こす。
「若い時、俺はやったl「だから、いまだってやれる」なんて頭で考えていると、やれないのがオチ
である。
Planしたり、Checkしたりする人も、たまにはDoすることもやらなければならない。

25.わかれ道

 結婚式て聞いた話である。若いカップルが、ひとまたぎ出来そうな小川の両側を、仲良く手をつな
いで歩いていた。ところが、幅が少し広くなってきて、手がつなげなくなった。
まあ、そのうち、幅が狭くなるだろうと思って、そのまま歩いていると、だんだん大きな川になって、
僅か、姿だけが見える程度になってしまった。声も届かない。
ついには、大河となり、姿も確認できなくなってしまったというのである。
夫婦の小さな溝も、放っておかず、小さい内に解決しなさいという話しである。
「一番始めの、一飛びで、相手側に渡っていたら‥‥‥」大きなわかれ道である。
この様な事例は、人生でも、企業活動の意志決定でも、よくある話しである。
そんな大きな話でなくても、生産の場でも、わかれ道がある。
「物」が一個でも動かないと、「それはおかしい」と感じるか、感じ無いかである。
     「これぐらいはいい」というのと
     「何とかならないか」というのとは
先程のわかれ道と同じように、大きな違いになる。
拘りの大切さもここにある。

26.現場が一番

 組立の同期台車を見直し、改善することになった。コンパクトにして、足の動き、手の動きを小さ
くして、ムダ・ムリを無くそうとするのが目的である。
ある同期台車の使いがってを、観察していると、高い位置から、手を伸ばして、小さな部品を取りだ
していた。躊躇することなく、手の動きが小さくなるように、改善組に低くしてもらおうとした。
ところが、作業者から、「切断しないで下さい」という発言があった。
 よく聞いてみると、「エンコパ内の組み付け作業なので、前屈みの姿勢が多い。1サイクルに1回
この小さな部品を取るとき、腰を伸ばすことになり、丁度具合がいい」というのである。
こんなことは、なかなか改善マンでは、掴みにくい。
一番よく知っているのは、現場で、毎日作業をしている人である。
 作業が、今遅れているか、進み過ぎているか、部品は何箱あれば足りるか、等々、現場の人は全て
を知りつくしている。定位置停止とか部品の最大・最少表示とかのツールは、管理・監督者が使って
こそ、はじめて効果を発揮するものである。
 ツールの活用とともに、大事なことは、一番よく知っている現場の意見を吸い上けることである。
やっぱり現場が一番、あんたが一番である。

27.ご破算で願いましては、

 「ご破算で願いましては…」いままでの数値を払って、また計算しなおす時のソロパン用語である。
人事移動の時は、ひととき、このような気持ちになる。
いままで抱えていた課題を引継ぎ、開放感にひたれるからである。新たなところでは、またかたちの
違った課題を引継ぎ、苦労は伴うのだが‥‥‥。
 プロジエクトで「ご破算で願いましては」はないだろうか?
違ったテーマであったり、戦略が異なっていればよいのだが、前プロジェクトが完全に「やりきれて
いない」のに次のプロジェクに移ることで、ご破算にしてしまうことである。
 ひどいときは、同じ目的であったり、狙いであったりする。変わったのはメンバーの一部だけ。
「前の続きはどうなっているの…」
「ご破算で願いましては」は、そう度々であっては、「継続は力なり」「徹底すること」の良さがな
くなってしまう。
生産の場でも、せっかく改善し、つくった仕組みが、定着しないで崩れていくということがある。
「認識の違い」「一部はやれてもスルーでみると、守れない制約条件が多い」「仕組みそのもののま
ずさ」など、原因はあるにしても、所詮はそれらを打ち破るトータルのパワーがないということにな
る。ご破算で願いましてはでは、苦労が虚しい。やらぬ方がましですらある。

28.富士山の湧き水

 富士山の麓で、湧き水を小瓶にいれて売っていた。その店で聞いた話である。
今年の水は、30年前の雪がとけて、長い長い期間、ろ過され続けて、湧き水になったというのであ
る。誰が検証したのか? 浸透圧と距離等から、学者がわりだしたのか?
伝えられている話なのか?この際、野暮なことは聞くまい。
その説によれば、今年の雪は、30年後に湧き水となり、小瓶につめられる。
湧き水の条件は「雪が降ること、」「ろ過する土壌があること」である。
 この湧き水を、企業の、職場の「利益」におきかえると、30年後のことを考え、継続して行動し
ておかないと、一時期、渇水期が起こるということになる。
今、利益を生んでいるとしたら、先輩達の財産かも知れない。今利益を生んでいないとしたら、後輩
の為に、雪を降らせ、土壌を育てる、という行動をおこしておかなければならない。
まさに、継続は力なりである。

29.散歩とパトロール

 現場を巡視する、点検する、作業者と交流する、管理者にとっては大切なことである。
しかし「目的」をもって、しっかり見ていかないと、ただの散歩になってしまう。
今日は、「作業者の足元をみて、安全を確認しよう」「工程間の仕掛かりを見てみよう」「作業者の
顔色をみてみよう」狙いを定めて、パトロールすると問題点がよく見える。
次の会議まで、30分隙間ができたから、現場を見に行こう。というような見方は、買物の予定も
ないのに、待ち合わせ時間を調整するため、ウインドショッピングしているみたいなものだ。
 工程の流れ、についても同じで、狙いをもって見て行かないと、問題点の顕在がAboutになっ
てしまい、具現化する実施事項におきかえられない。

30.金太郎飴

 「画一的で、個性の乏しい集団や思考」に対して、「金太郎飴じやあるまいし」などと悪い引き合
いにだされるが、生産の場では
「金太郎飴のように、どの断面を切っても、同じ並び方をしている」…平準化
「金太郎飴のように、どの断面を切っても、同じ絵が出てくる」…生産の流れ・標準化・工程配分と
いうように、良い例の引き合いにだされる。
金太郎飴も救われる。

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