段取り替え時間短縮と原価低減

著者: エイム研究所 矢野 弘

ある工場の出来事をお話しします。そこは1週間分の量を数時間かけて生産し、在庫を溜めて後工程に供給していた。後工程は与えられたものを生産して製品在庫にしていた。在庫が多いにも係わらず不足が出たりしていたため、これではいけないと自主的に改善に入った。のだがしかし・・・

 当初、樹脂成形の金型の交換で改善前は段取り替えに1時間かかっていた、改善後は1分以下になったと喜んで発表してくれた。努力やうまいアイデアの改善で何カ月かかった。確かに段取り替え時間が60分の1となった。とてもすごいことである。しかし、そこで「短縮された59分は一体何に使ったんですか」と聞くと答が帰って来ない。

 

生産性の指標のなかで、設備をいかに上手に使ったかを示す能率(可動率)がグン!と上がっていたではないか。短縮された59分は生産に使っていたのである。段取り替え時間が短縮されたおかげで100%に近い値になって生産性が上がり、不足も無くなり、一石二鳥と喜んでいる。

 ところが後工程を見てみると部品在庫の山となっている。段取り替え時間短縮で稼いだ時間を、作る時間にあてたものだから在庫がさらに増えている。見かけ上、生産性が上がった状態に見えるが「効率よく在庫を作った」だけである。売れないものを効率よく作っても真に生産性が上がったとはいえない。

 

そもそもロットが大きいため、あるものは多く有り、欲しいものが不足したりと、ちぐはぐな状態なのを解消する目的で段取り替え時間短縮したのに、さっぱり分かっていない。

 段取り替え時間を短縮した分、段取り替え回数を増やして小ロット生産にしようとすると、「せっかく生産性が上がったのに落とすのか」、「また段取り替えで止めると時間を使うと設備も人ももったいない」という。「在庫は生産管理の管轄だ」などと一部反対はあったものの渋々、段取り替え回数を増やして小ロット生産をし始めた。

 

今まで1週間分をまとめて作っていたものを毎日生産するようになってきた。しかし小ロット生産にしたにもかかわらず在庫があまり減らない。よく見ると段取り替えしやすいような順番につくったり自分の都合のいいような品番を細かくつくっていただけであった。

 これでは後工程が欲しいものが出てこないのでせっかく小ロット生産でつくっても在庫は一向に減るはずがない。作ったものが的外れでは小ロット生産した意味がない。 後工程が必要なものと量を必要な順番で生産しなければ、せっかく段取り換え時間を短縮して小ロット生産しようとしても在庫低減という効果は現われない。

 

一般にシングル段取り替えとかワンタッチ段取り替えとスローガンを挙げて改善に取り組み、目標が達成され成果はでているが、実際に製品在庫が減ったする経営効果をアピールする製造はあまり見たことがない。

 段取り替え改善に取り組む以前に、まず適格な生産指示がその工程にくるような「しくみづくり」をしなければならない。そして後工程からの細かい要求がくるしくみを創ることで、段取り替え改善の改善ニーズが伝わり、その後ネックになる工程の改善を図らなければならない。

 

そうすることで、60分の1と短時間にならなくても、たとえ10分でも短くなった分、回数を1回でも増やし、ロットの大きさも少しでも小さくすることで在庫は減少し、効果となる。随時、改善した分の効果を出すしくみづくりが善い改善となる。

 「原価低減の形」というものがある。残業が減る、休日出勤が減る、省人する、在庫仕掛かりが減る、仕損が減るなど段取り換え時間を短縮しただけでは原価低減にはならない。原価低減の形になるまで改善は進めなければならない。

 

例1)目的:在庫削減+欠品も低減
売れるものだけ造る
    ↓
売れるものを検知するしくみづくり
    ↓
その情報が生産指示になるようなしくみづくり(例えば後補充生産のしくみ)
    ↓
ネック工程を発生させる(段替え時間が長いからといってネックでなければ改善しない)
    ↓
その工程の段取り替え時間短縮+段取り工数低減→成果は出た
    ↓
ロットを小さくする(必然的に回数増加)
    ↓
かんばん枚数を減らす(在庫仕掛りを減らす)
    ↓
在庫が減り始め効果がでてくる→より段取り替え時間短縮し目的目標を達成するまで実施

 

例2)目的:外注加工費削減(段取り替え改善でこんなケースもある)
内製化で外注加工費削減したい
    ↓
内製化すると過負荷(ネック)になる工程を洗い出す
    ↓
その工程の生産性(可動率と能力)を上げる課題を出す
    ↓(スピードアップなど課題はあるが)
段取り替え時間を短縮
    ↓
短縮した時間を生産時間に当てる
    ↓
対象製品(品番)を外注から引き上げる(この時点から目的の効果が出始める)

 段取り改善をする前にしくみ改善が先です。
 さもないと成果はでるが効果はでない。

 

ページ上部へ