技術料のムダ

著者: エイム研究所 矢野 弘

■社外に頼る理由■

 技術がない場合はどうしても社外に頼る場合がある。早く商品化したいが技術がない場合はどうしても頼らざるをえない。商品化に時間がなかったり、開発するにしても資金や人材が不足していると技術を持った部品メーカーなどに頼ることになる。

 

無理に内製化や社内開発で行おうとすると品質のトラブルで商品化が遅れたりして商機を逃す。また市場クレームを起こして、リコールで社会問題となったりする。今まで築いてきた信用が落ちるというリスクを避けて通りたいというのが本当の理由である。すでに市場にある技術ならば買って済まそうとする気が起きるのは普通の意識である。

 

■変化する環境下での内製化の必要性(車の事例)■

 車のバンパーの形について昔からどう変わったかを思い起こしてほしい。
昔は鉄のバンパーであったが今は車と一体の形状になった樹脂のバンパーに変わってきている。

 自動車メーカーであるトヨタは昔、ほとんどの部品は購入してつくるなどのアセンブリーメーカーであった。車の機能・性能を大きく左右するエンジンは内製でつくっていたが、あまり商品価値があがらない部品は設計(デザイン)はすれど部品としては部品メーカーで金型を起こして部品で買えばいいやと思っていた。

 

しかし今のバンパーは車の外観や燃料消費率を左右する空気抵抗に係わるためデザイン的にかなり重要な部品になってきた。単にショックを和らげるとかの機能部品ではなくなってきたのである。従来通り、バンパーを鉄でつくってしまうと重たくなったり、思うような形状にデザインすることができなくなったりしてしまう。

 また、少しぶつけただけでへこんでしまうようではユーザーとしてはたまったもんではない。そこで樹脂を使い始めたのである。昔の樹脂部品はほとんどスイッチのノプやケースぐらいの機能部品であり重要な技術ではなかった。主要な技術は機械加工や板金の技術であった。

 

そのため樹脂成形の技術がなかったために樹脂成型メーカーにつくらせていたが、車と一体感をもたせるバンパーのデザインになり、さらに大きくなったこともあり、とても高価な部品になってきた。機能部品とは違い車の外観であり、さらに印象に大きく左右する車の両端部品である。

 モデルチェンジごとに変わりコストアップの要因にもなるが、新車開発時の外観の情報が漏れてしまうのもよくない。逆に言うとコストダウンとマル秘の要求が高まったということになる。このまま部品メーカーに頼ったのではコストダウンの要求をしても、成型技術は社外に頼ってきたために思うようにいかなかった。

 

そこで内製化を決意したのである。十数年前の田原工場での事である。部品メーカーからは「餅は餅屋に」と揶揄されたがトヨタとしては内製品が外注よりすぐに安くなるとはもともと思ってはいない。ようは内製化することでコストの分析ができ本来いくらでつくれることができるのかということが知りたかったのである。

 ノウハウがないので外注するということは技術料込みで部品の値段が決まることになる。これによって技術開発費や特許料が含まれたりして見えないコストが多く入り高い値段をつけられてもしかたなくなる。これでは値引きの要求をしても売り手に主導権があるため思うようにいかない。

 

いくら値引き要求しても、このノウハウがない限り強者(親)と弱者(下請け)の関係でしか交渉はできないし、あまりひどく値引き要求すると公正取引に違反し告訴されることもある。同じ物をつくっていれば競わせることができるが、逆に量が分散されるので量産効果によるコストダウンがしにくくなる。

 一般に発注先がよく行う工程監査がある。品質調査が主な目的ではあるが監査ならぬ生産技術のノウハウを得ようとする。ひどい場合だとピデオカメラとストップウォッチを持ってノウハウを取りにくることもある。

 

あまり過激なことをすると売り手の方も正直で詳しい資料など出さないし、苦労話しをしてなんとか値切られないように上手にごまかすようになる。共に儲かる良い関係にはならなくなり、企業関係は表面的な関係になってくる。

 

■ブラックボックスをつくらない■

 単なる社内の生産能力がオーバーして加工外注するならば原価の構成が分かっているのでコストを決める側になることができるが全く社内でつくっていなければ、原価が分からないので主導権はにぎれない。特に商品の魅力を高めている部品やデザイン部分を部品メーカーで設計や生産準備(金型組み立てライン)をすべて任せているとブラックボックス的な部品を購入していることになる。高い買い物になる。

 

デザインインというやり方がある。発注する側の要求に合った品質や値段をつくり込むために、さらに仕入れ先も高いものづくりならないようにするために行う。単に設計されたものを受けるのではなく商品開発や設計段階から技術者をお互いに出して品質・利益・納期を確保し向上していこうという手段である。

 これにより設計する時からつくる側のノウハウを考慮して設計することができ、製品の立ち上げ当初からお互い儲かる部品をつくることができる。近江商人の経営理念に「三方善し」がある。「売り手善し 買い手善し、そ して世間善し」である。


高価な状態で購入し続ければ、つくる側の原価低減能力が向上しないし、甘やかした状態になる。社会的に見てよいものならば高価なままであると普及せず、社会に貢献できなくなる。高く買ってもらうのは一見よいように思うが、社会的に見て普及を妨げるのは悪いことになる。

■内製化での間違った原価比較■

  内製化ということについて考えてみてほしい。内製化しようとするとどうしても社外との加工費用を比較することになる。その時、往々にして社内の社長の給料や営業の管理費まで含めた加工レートを使ってしまうときがある。そうするとすべて外注にした方が安いということになる。

 これでは単なる商社かブローカーになってしまう。この加工レートの計算の仕方、つまり何を含めるかで数字が全く変わってきてしまう。その数字で間違った判断をしてしまうことがよくある。実際に内製化するか外注にするかを比較するには、実際に発生する費用で比較しなければならない。


つまり、直接の作業者や直接的に投資する設備、実際に使う電気代、エネルギー代などで比較すべきである。ひどい会社では1時間当たり7,000円の加工レートを採用している会社がある。この7,000円の中には社長の給料も含まれていたり、さらに他の事業部での設備投資もおしなべて含んでいるため、かなり高いレートになっている。

実際に作業者にかかっている費用は給料や福利厚生など含めると七分の一の時間当たり1,000円程度である。なのにその7倍で算出してしまい間違った判断を下すことになる。

 加工レートは目的別に持ち使い分けるべきである。

●コストダウンを行うときのレート
●販売価格を決めるための原価計算をするレート
●直接作業者を増減するときのレート

 負荷が増えて外注に出す場合には、実際にそれを内製化した場合に増える作業者の人件費、実際に発生する残業手当ての額で比較すべきである。


■内製化の奥深さ■

 トヨタ自動車がタイヤを内製化して組み立てラインとつなげるというものづくりのニュースが世間をにぎわせたが、これは今に始まったことではない。記事の内容としては、よりジャストインタイムを追求しているような取り上げられかたである。

タイヤはすべてタイヤメーカーに頼っていたためにどうしても思ったようなコストダウンができなかったし、「こんなタイヤが欲しいんだ」といったように開発での主導権が持てなかった。

 ●私の推測

 今、車はガソリンからハイブリット、そして将来は燃料電池へとどんどん変わってきている。そのために各部品の構造や車の中の配置が大きく変化し始めている。ここで1番障害となっているのが電気とか燃料を蓄えるバッテリーや燃料電池の配置である。


従来の燃料タンク以上の体積になってしまうためにどうしても、どこかの空間を削らざるを得ない。そこで1番無駄だと感じるのがスペアタイヤである。みなさんこのスペアタイヤを使ったことがある人は数少ないであろう。

もし使ったとしても一生に1度や2度ぐらいである。私とて20年以上、車に乗っているがタイヤのローテーションのときに使うぐらいで、パンクなどで使ったことが無い。10年間で1度や2度のためにこのスペアタイヤの空間をずっと取ってしまうのはとても無駄である。

 パンクしなければこのスペアは必要ないのであるが、パンクしないよう改良しようとするとタイヤメーカーはジレンマに陥る。タイヤはパンクしたり消耗してくれないと次を買ってもらえないため売り上げが落ちる。これでは自分の首をしめることになる。だから、タイヤメーカーはパンクしないタイヤなど本気で開発することはない。


しかし、車メーカーとしてはこのほとんど使わないスペアタイヤをなくし、この保管スペースを使いたいのである。車メーカーが主導権を持ってパンクしないタイヤを開発しない限り、その願望も実現することはない。単なる内製化で組み立てラインにつなげたいジャストインタイムであるはずはない。

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