著者: エイム研究所 矢野 弘
背景
継手の加工後のさまざまな形状の仕上げ工程(異物チェック,面取り、バリ取り)で、半導体装置で使うため慎重な仕上げが必要となる。
「創意工夫で世代を超えて伝承、年齢も雇用形態も関係ない」
<先輩(64歳で経歴パートで20年弱)のお話>
●今の仕事のきっかけと当時の教えてもらい方
45,6歳で始めて会社という団体の中で仕事をし始めた。前の会社では、とても細い金線を巻く仕事をしていた。技能というより、いかにきれいに汚さないように巻きたかったので道具の要であるピンセットは人に負けないくらい細く研いでいました。
その時の上司の教えに今でも強く頭に残っていることがある。「ホウキを取ってくるとき、ただ単にホウキだけ探してまっしぐらに取りにいかないで、その途中にあるものをよく見て覚えて帰りなさい。次に何かを取りに行くとき、すぐに行けるように」と、仕事は必ず往復するのが常であり、必ずキョロキョロするのが身についた。
この会社に入ったときに3カ月は見習いだった。その後1年半ほどたってテフロン樹脂の面取りやバリ取りをし始めた。しかし、やり方も分からず道具も無かったため迷ってばかりでいた。どうやって取っていか分からず眠れない日々が続いた。そこで外注さんに教えてもらいに行ってこの班長さんから削るナイフを1本頂いた。今でも大切に保ってある。そして、班長さんがナイフをつくっているのを見てつくりかたを覚えた。
●腕を上げるために大切なことはなんですか
頂いたナイフが届かないところがあり困ったことがある。そこで自宅のナイロンタオルや紙やすりを持ってきて、棒の先につけてこすったり、金ノコの刃を削ってナイフをつくったり、家にあるものをいろいろ持ってきて工夫していった。とにかく仕事で困ったときは、やり方や道具を工夫することが大切で、なに気なくふと考えてやっていた。癖かもしれない。ただ単に仕上げそのものをこなすだけでなく工夫を楽しむことがいいと思う。
●教え方でのこだわりは
最初は隣にいてもらって見せながら見ながら教える。最初はきびしいですよ。とくに出来ばえは。しかし、その後のやり方は自分がやりやすいように工夫しなさいと教える。先ず自分のやり方を教えるが、次第に自分自身もやり方を改善してしまうので教えたことと変わってくる。同じ道具を使っても出来栄えが違うので、やはり自分の感覚で工夫した方法や道具をつくることが大切だなあと思っている。
●五感の中で大切なものは。
削ったときの手の感覚で出来栄えが分かる。目で見て確認するが、きれいに取れたときは手の感覚で分かる。それがすごくうれしいし喜びがある。だから刃物の工夫や自分で研ぐことが大切だと教える。道具を創ったり家では棚をつくったりするのがとにかく好きです。
与えられた仕事をこなす人材の確保と育成はわりとたやすい。しかし、行っている自分自身の仕事の改善や、担当以外の仕事の改善ができる人材の育成はとても困難である。企業は足元を固めることと成長を両立していかなければ未来はない。どれが良いとか悪いとかではない。使い分けることがよいことである。