著者: エイム研究所 矢野 弘
駐車場も有るし、看板もしっかりしていた。しかし、異なる特徴があった。それはお店の建物の形である。廃業しているお店は【図1】のように二階が飛び出していて片持ち梁型になっていた。繁盛しているお店は【図2】のように逆に二階が引っ込んでいて狭くなっていた。
●便利なのが良い?
お店を開業するときにオーナーは、お客さまに気に入られるために、いろいろ考えて店舗を建築する。または適切な店舗を選び改装する。構想を巡らせているなかで、広さについては広い方が良いと考えるのは当然のことである。
広い方が良いとすると、お客さまが直接使う一階の店舗や、二階の物置や事務所になる部分の両方が広ければ良いと考える。しかし、一階は駐車場の場所も確保しないといけないので限られてしまう。すると二階を広くしようと考える。
二階を広くすると【図1】のように飛び出た片持ち梁型になる。飛び出た分だけ広くなるので多くの物が置けるようになる。また、一階から見ると飛び出た部分がひさしになり、お客さまから見ても日よけや雨よけになり便利が良い。
看板を付けるのも二階が飛び出ているので、飛び出た部分を利用して看板を付けると目立って良い。さらに雨に濡れないので、花やメニュー看板などを出したままにしておけるので常にアピールできる。なんだか良い事だらけで、お店も繁盛しそうな感じがする。
逆の場合は二階が狭いので物が多く置けない。一階は雨よけのためにひさしが別に必要になる。メニュー看板など外出しの物は、毎回出し入れしなくてはならないので面倒くさい。
こちらのほうは手間が掛かり、怠ると雨風に当たって壊れていきそうで、みすぼらしくなる。便利差で比較すると二階が出っ張った方が良いが、経営からすると結果は出っ張ったお店の方が廃業して、引っ込んだ方が繁盛している。
それはなぜか?
●意識は形に現れる
広い方が良いとする人は、物を多く持ちたいという意識がある。その意識は経営のなかの判断の節々に出てくる。すると場所がある限り、空間がある限り、捨てることをしないので「必要、不要」の判断体験が少くなり、かつそれを避けて通る人になる。
例えば売り上げを上げるのに、いろいろなイベントをする。そのイベントごとに道具をつくったりして、うまくいってもいかなくても捨てるのがもったいないし、また使うかもしれないと意識する。とりあえず、二階に保管しておこうと判断する。いろいろ試した物が積み重なり、物が増えていく。徐々に増えていくので、本人は物が多いとか汚いとか気が
付かない。
常に何もかも「必ず要る」「有った方が良い」と判断し、「必ずでない」や「要らない、捨てる」の判断と行動ができなくなる。当然、捨てられない人は必要な物を誰でもすぐに取り出せるような整頓もできない。そのため、どこに何が有るのか分からないジャングルのような物置に二階はなってくる。二階の窓は物で隠れてしまう。
このようなオーナーの一階の店舗は、当然のように二階と同じ整理整頓が行き届かない雑多な雰囲気になる。飲食店ならば厨房など何もかも手元に置いて、置くごとに場所が変わり、異なる器具も積み重ねて、手があわてるような動きをするようになる。よく動いているが小さいミスが多く発生する。
お客さまへのもてなしに差し障りが出るようになり、腹を立てて二度と来ないお客さまもいるでしょう。一階部分の出っ張りの下は雨が濡れないので外出し看板を置いた時のしまう場所として、また花も飾ろうとして植木も置き、手入れされず枯れてもそのままで、徐々にやはり物置になる。そしてお客さまの雨よけの場所は入り口ドアの部分だけになる。
すべてにわたって「広いから少々整理整頓をしなくても大丈夫だ」という意識が経営全体に影響を与えて、それが見た目の形に現れる。
●人は形に合わせて行動する
反対に二階が引っ込んだ狭い店舗を選んだオーナーは、狭いがゆえに常に整理整頓をしないといけないので「必要、不要」の判断能力が向上していく。するとこれが経営全体に行き渡り、売り上げを上げるためならば何でもするではなく、お客のターゲットを絞り効率の良い経営をするようになる。
ムダな物や時間が少ないので、これでつくられた時間をお客さまへのもてなしに活用すると繁盛は間違いなしとなる。「少数精鋭」という言葉がある。少数だから精鋭になることは、みなさん知っていると思います。場所も同じで「狭隘広大」(きょうあいこうだい)といい、狭くて窮屈がゆえになんとか広く使えるようにしようとする。
職場が狭くなったので広い工場が欲しい。どうせ工場を建てるのならば三階建てに……。倉庫が狭くなった。どうせ倉庫を増やすならば二階建てに……。棚がいっぱいになった。どうせ買うならば背の高いのを……。こんなことをすると空間の誘惑に引かれて、その大きさまで物がいっぱいに詰まっていく。
このような意識を持っていると、その意識は外観の形に現れて、その形は人の行動に誘惑を与える。ちなみに、先ほどの店舗は時間が経つと【図3】のようになっていく。二階が狭い店舗は逆に余裕が出て、外から見えるベランダにはパラソルを置いたりして、とても良い雰囲気になった