異常時のリーダーシップ(1/4)

著者: エイム研究所 矢野 弘

今住んでいる所で阪神大震災に遭い、最近は宮崎県で現場指導中に火山噴火に遭いました。さらに今回の東北地方の震災では関東北部の工場を指導中に地震に遭い、何度も生命や生活の異常を体験しました。私自身が自然災害を呼び寄せているのではないが、地理的に日本に住んでいる以上は覚悟が必要です。今から私が何度も災害に遭った時の対策体験をお話しします。

 

● マニュアルや上司を探すどころではない

急に災害に遭った時の対応は事前にマニュアルをつくり、さらに訓練をしてもできるものではない。最も行動で影響するのが、たまたまその場にいた上司がどんな対応をするのかで大きく結果が変わる。
それは、普段ほとんどの人は上司の命令で行動しているため異常時でも、いつものように上司の指示を待ってしまうからである。
上司は平常時の業績や人柄で昇進しているため、普段の管理能力は高いが災害での異常時の対応はできないのが普通である。ましてや異常を排除し、避ける気質の上司であると、何も行動できなくなる。マニュアルを作成したとしても棚のファイルに保管したままで、マニュアルがあること自体も忘れている。

 

● 異常事態の最初の行動

“まず自分を助けるのが第一”

地震が発生して自分の身に危険が迫った時は、まず自分の身の安全を最初に図る。この時に組織や会社など気にしない。他人や会社を助けるのは自分が安全だと分かった後である。とにかく安全な所まで命令を待つまでもなく自分の判断で避難する。

● 異常時のリーダーシップ

働いている時に地震が起きた場合、避難したにもかかわらず平常時の価値観が働き、つい機械や製品が壊れないか気になり、大きな余震を承知で対処しようとする人がいる。日ごろ、まじめに仕事に取り組んでいる人ほど自分が助かった後で向かっていく。すると人的被害が拡大していく。これを防ぐのが異常時のリーダーシップである。

 

(1)まず緊急対策本部を設ける(5分以内)

地震や火災が起きた時は建物から避難して安全なところに全員を出す。全員が出たその場で、誰でもいいので、まず緊急対策本部長になる。ここで周りを見回して上司は誰かを探さないことである。
これをするとリーダーになった人がさらに自分より上の上司を探し、時間が失われ、判断遅れが出てくる。後から自分より上司が来れば本部長を代われば よい。

 

続いて緊急対策本部を設置する。「ここに緊急対策本部を設置する」と宣言を行うことが大切です。道具としてはホワイトボードが1台欲しい。なければ段ボールでもいいので紙を張って大きく表示できるようにする。
これに「緊急対策本部」と「本部長の名前」を表示する。
対策本部長は決してここを動いてはならない。それは決断と指示をすることが最も大切な任務であるからである。本部長自身が救助に行き不在になれば、決断や指示をする人がいなくなる。
すると、全員がバラバラで行動してしまい、また指示待ちで活躍のタイミングを失っていく人も出る。これは被害の拡大を招くことになる。
本部長が決まると参謀を決める。現場のレイアウトや部下の能力および状況をよく知っている人を一人、対応方法の案を考えて提案する人を数人決める。さらに記録係を一人決める。

コミュニケーションボード

(2)避難した全員を集合させて点呼をとる

全員を1ヵ所に集めて誰がいないのかを調べるために点呼を行う。人数が多い場合は建物ごとのグループを決めて点呼をとる。もし不在者がいても勝手に探しに行ってはいけない。不明者が分かることは救助にとって大切である。

 

ページ上部へ