物づくりの小話し、あれこれ(著者 小林弘司様)51~60
51.動かぬパレット
数年前の仕入先での話である。
プレスと板金溶接区の間に、プレス完の仕掛け品の置場があった。
しばらく、立って見ていると、部品が頻繁に動いている気配がない。ずっと居れる時間も無かったの
で、この場所から、このアングルで、「1時間に1回、写真を撮っておいてください」と依頼した。
24枚どりのフィルム3本分で、9日分である。これを時系列に並べてみた。
一見同じように見えるパレットも、塗装の剥げているもの、少し変形しているもの、中のワークの状
態、パレット自体の向き、等々 1つ1つ表情がある。
だから、先にあったパレットか?、後で持ち込んだパレットか?、このパレットはいつからそこに
いたか、手にとるように解る。
その置場の監督者は、そんなに物が停滞しているとは思っていなかったようであった。
真面目な彼が「うそ」を言っているはずがない。事実そう思っていたのである。
躊躇することなく、50%在庫低減の目標が設定できた。
便毎の荷量等も、写真で、積載状況が解る。出発直前のゲートを閉じる前に1枚写すだけである。
このころのカメラは時間まで、記録してくれる。
1日4便だと、1本のフィルムで、6日分の荷量や積載状況が解る。
かんばんの振れだって、一目瞭然である。
いろいろなグラフや表もよいが、写真を並べると、事実を写しだすので、信頼度は高く、説得力があ
るように思う。
ビデオ、写真は、動作解析や調査に活用するとよい。
52.TQC・TPM・TPS
体を鍛えるスポーツが沢山あるように、職場の活性化の手段もいくらでもある。
TQCでも、TPMでも、TPSでも、徹底してやることである。
TQCがやれるものは、TPMでもTPSでもやれる。またTPSがやれるものは、TPMでも、
TQCでもやれる。TPMもしかりである。反対に○○○が出来ずして、○○○がやれるものか!
といいかえることができる。
どの手法が、今の環境下で、一番適しているかの効率からみた、選択はあるかも知れないが、大切
なのは こだわって徹底した展開をはかることである。
それは、過去の経過が教えている。全て、学んだものぱかりであり、進め方が解らないというものは
ないのだから…。
これらは 野球の バットとグローブとボールのようなものである。
どこも、大事なのである。個々の職場と課題で、切り口を選択すればよいが、同じことを教えている
ことに気づくはずである。
53.タワーリング、インフエルノ
高層ビルの大火災の映画である。たしか、ポールニューマン、スティーブマックインが主演してい
た。最近でも、ビデオ放映されている。
新任塗装課長時代、そのビデオを見ていた時の話しである。
まだ新任1ケ月もたっていなかったときであったろうか?、その火災場面をみていて、妙にむな騒ぎ
がした。塗装課というのは、火災が一番恐い職場であったし、新人課長というひた向きさが・そんな
気持ちにさせたのかも知れない。
そのままでは、いやなので、夜勤で稼動している職場に電話をかけた。
「いまこんな映画をみていて、なんとなく気になったので、塗装ブースのアース、すぐ見てきて欲し
い、一時間後、再度電話する」と職長にたのんだ。
唐突だったので、職長も面くらったと思う。
しばらくして、職長から、電話がかかってきた。
「アース、チェックしておさました、1ケ所、すこしゆるかったので、増締めしておきました」とい
う返事であった。それで安心した記憶がある。
歳月がたってから、このできごとを思いおこす機会があった。
「あの時、本当に増締めしたのだろうか?」「新人課長を安心させるために、ベテラン職長がチョッ
ト脚色したのだろうか?」
定年退職した職長に、なぜか聞きたいような気もするが……。
後者だとすると(なんとなく、そんな気がするのだが)心にくい、小さな「うそ」である。
54.集団写真
ある人が製造課長になって着任することになった。製造技術や生産技術にもいたので、技術的なこ
とに詳しい。監督者の人は、いろいろテクニカルなことも聞かれるだろうと準備して、引継ぎを待っ
ていた。
ところが、いっこうに引継ぎをしない。準備している者にとっては、拍子抜けである。
初めての指示が、「組単位で、全員の写真をとって下さい」ということであった。
400名以上の在籍者がいる課であったが、その写真をもとに、数ケ月で全員の名前を覚えられた。
その効用は言をまたない。「人を大切にする」第一歩は、まず名前を正確に覚えることである。
「君、君、」と呼ばれたり、「チョット、チョット」と呼ばれたり、「オイ、オイ、」と呼ばれる
より、「なに、なに、さん」と呼ばれる方が、相手さんも、気持ちがよいにきまっている。
上に立つ人ほど、人を介して仕事をしている、あるいは仕事をしてもらっている。
「物」の名称を覚える前に、それを造っている人、運んでいる人、を先に覚えるぐらいの、心づかい
があれば、よいと思う。
55.設備改善のまえにまず動作改善
動作改善は地味な活動である。手順や動作をこのように改善しましたといっても、改善前の動きが
どうであったか、わかりにくい。また条件がかわれば(タクト、型式比率等)、せっかくの改善が消
えてしまうのではないか?という心配もある。それに、0.01秒~0.1秒の小さな改善の積み上
げである。
それに、くらべて設備改善は、省力化した部分は、目でみてすぐ解るし、条件が変わっても維持し
やすい。それに効果も大きい。だから、どうしても、レイアウトや自動化改善に走りやすい。
けれども、これらには、必ずいくぱくかの設備投資がともなう。
動作改善で目的を達するなら、過剰投資ということになり喜べない、改善どころか、ムダを発生さ
せてしまう。
だから、まず動作改善を徹底して行い、そのうえで必要であれば、設備改善に移行するようなステッ
プを踏むべきである。
なお、動作改善の評価として
① 足の動き、一歩(75cm)=0.3 秒、(但し、第1歩は、0.5秒)
② 手の動き (10cm)=0.1 秒、
③ 指の動き (10mm)=0.01秒、という目安がある。
56.相思相愛
相思相愛というのは、男女のなかだけではなく、人間関係にもあい通ずるものらしい。
「あの人は、すばらしい、信頼できる」「とても良い人だ!」とこちらが思えば、相手も好意をもっ
て接してくれる。
「こちらが、何となく嫌いだ!」と逃げにまわると、相手も避けて通る。
こじれてくると、朝の挨拶すら、素直にかわせなくなってしまう。
辛うじて、大人としてのふるまいで、露骨にならないようにしているだけである。
人間のテレパシイというのは、恐ろしい「冴え」をみせる。
いくら、口で合わしていても、わかる。
唯一の対策は、嫌いな人をつくらないことである。
57.企画台数とレイアウト
企画台数と実績台数のギャップ、これは過去に何回も経験されている人がいると思う。
嬉しい方のギャップは機会損失というマイナス面はあるけれども、売れるわけであるから、そう心配
しなくても、追加投資したりして、対応できる。決裁もおりやすい。
ところが、反対の場合は、固定費のカバーができないばかりか、島工程ができ、端数工数が処理で
きないなとの憂き目をみる。
ひどいレベルになると、当初、8名で工程編成していたところが、1名で対応しなければならない台
数まで、落ち込むことがある。そうなると、ますます投資はできなくなる。
だから、新しいレイアウトをするときは、
一筆書き、すなわち1人でスムーズにまわるとしたら、どんなレイアウトにすればよいか?を原点と
して検討するのがよい。それができると
①端数工数を1ケ所に集められる。
②作業をどこでも切れる。
ということになり、少人化ラインに近づける。
58.ホーチミンの革命戦争
ホーチミンは、ベトナムの英雄である。彼が革命軍を率いて、戦いに明け暮れしているとき、戦士
の一人から、「この戦いは、いつまで続くのか?」という問いがあった。
彼は、「始めと終わりはわかっている。しかしその長さ(期間)は、君達の努力しだいだ!」と言っ
たという。古い戦士が、テレビインタビューで話しているのを聞いた。
素材を「始め」におきかえ、完成品を「終わり」にたとえると、「その長さ」はリードタイムとな
る。それを長くしたり、短くしたりするのは、そのショップの努力しだいということになる。
「始め」を狙い、「終わり」をあるべき姿におきかえても、通ずる言葉である。
59.止めて、直す
作業が遅れたとき、異常を見つけて直す時のために、定位置停止がある。
作業者の意志で、停めたり、動かしたり出来るというのが、このツールの最も優れた特長である。
口で、逐一、伝えるところを、停めることによって意志表示し、管理・監督者に、ここに「このよう
な問題点がありますよ」と教えてくれているのである。
ところが、増産、々、の期間が長く続いたものだから、「止めて直す」という一番大事なことを忘
れてしまった。
少し、人は沢山いれても、可動率を上げた方が徳である。あるいは、止めて直すより、ラインをおり
てから、直す方が徳であると考えてしまう。
これは、そのときどきの効率を求めているだけで、問題点を顕在化させて、その「源を絶つ」とい
うことを忘れているのである。
勝つために、投手ローテーションを崩し、無茶な連投をさせたり、若手を使わず、古手の即戦力選
手ばかり使って、勝負しているチームのようなもので、将来の楽しみはない。
車の運転もまず「停める」ことから教える。練習であっても、停め方の知らない人を、車には乗せ
ないはずである。
勇気を持って、「止めて、直す、」ことのできるショップが、最後には勝者になる。
60.ピンチのあとにチャンス
野球でも、チャンスを逃がしたあとに、ピンチがきたり、逆にピンチのあとにチャンスが不思議と
おとずれる。心の動揺・油断といったものが、そのジンクスをつくっているのかも知れない。
生産の場でも、生産変動による、タクトアップとタクトダウンがある。
一般的には、量産効果のあるタクトアップがチャンスであり、タクトダウンがピンチということにな
る。しかし、タクトダウンにも、よいことが多くある。
①工程能力、設備能力に余裕ができる。
②残業、休出が減らせる。
③応接比率が小さくなり、安定する。
④減産なので、早めのトライ、訓練が計画できる。
⑤端数工数が、丁度よい程度になり、リリーフがなくせる。
なのに、良い方をあまり言わない。タクトダウンのデメリットを強調する。
・固定費の償却が遅れる。
・⑤の反対の現象、すなわち、島工程になりやすく、端数人工が出やすい。
・頭数を減らすために、工程編成の組み替えが大きく、混乱する要因となる。
・職場の意気があがらない。
さらに加えるとしたら、こんなことだろうか?たかがこの程度である。
問題は、むしろタクトダワンの時に、工夫したこと、努力したことを、タクトアップ時に元に戻して
しまう(維持できない)ところにあるようだ。
ず~と坂道、ず~と登り道、という道はない。生産に変動はつきものである。
タクトダウンであっても、動揺したり、油断しないで、次のタクトアップ時のプロローグぐらいに
とらえて、飛躍のチャンスにするとよい。